HOME > サステナビリティ > サプライチェーンの人権・労働環境の尊重 >生産パートナーのモニタリングと評価

生産パートナーのモニタリングと評価

最終更新日: 2024.03.22
to English page

サプライチェーンにおける人権の尊重や労働関連法令の遵守、労働環境の改善を最優先課題のひとつと考え、「生産パートナー コードオブコンダクト」に基づき、労働環境モニタリングに積極的に取り組んでいます。

労働環境モニタリングの概要

ファーストリテイリングは、2004年に「生産パートナー コードオブコンダクト」を策定し、2023年時点で、すべての縫製工場、主要素材工場および主要紡績工場について、労働環境モニタリングを通じた遵守状況の確認を行っています。労働環境モニタリングのアセスメント手法として、第三者機関による抜き打ち監査や、アパレル・フットウェア業界共通のフレームワークによるアセスメントを導入しています。いずれの方法でも、ファーストリテイリングの労働環境基準に基づき工場の労働環境を評価し、リスクの深刻度に応じた改善活動を行っています。新規に取引を開始する縫製工場に対しては、事前監査を実施することで、適正な工場のスクリーニングを行うとともに、早期に労働環境の改善に着手できるようにしています。

また、サプライチェーン全体における人権デューディリジェンス強化と人権リスク未然防止に向けて、2023年から主要紡績工場についても「生産パートナー コードオブコンダクト」の締結と労働環境モニタリングを開始しました。今後も原材料調達の最上流までを自社で把握し、自社従業員による訪問や第三者機関による監査、第三者認証などを通じて、サプライチェーンにおける人権の尊重や労働環境の改善の取り組みを進めていきます。

ファーストリテイリングは2015年、公正労働協会(FLA)に加盟しました。FLAの労働環境基準の導入のほか、労働環境モニタリングプログラムの改善、およびFLA加盟企業や工場、市民団体などのステークホルダーとの対話について、FLAから支援を受けており、2019年2月にはFLA認定を取得しました。これは、労働環境モニタリングを含め、当社のサプライチェーンにおいてFLAの労働環境基準を満たすための仕組みや手続きが整備・運用されていることを意味しています。FLAは労働環境基準が継続して満たされているかを確認するため、毎年、サンプルベースで工場の監査を行っています。2023年8月期は、当社の生産パートナーのうち4工場が監査の対象となりました。

関連リンク

新規工場の事前監査

新規に取引を開始する縫製工場に対しては、ファーストリテイリングの基準に基づく事前監査を実施することで、適正な工場のスクリーニングを行うとともに、早期に労働環境の改善に着手できるようにしています。事前監査に合格し、「生産パートナー コードオブコンダクト」遵守を誓約いただける工場とのみ契約しています。2023年8月期は70工場が事前監査の対象となりました。事前監査で不合格となったものの、改善のうえ再監査で合格した3工場を含め、すべての工場と「生産パートナー コードオブコンダクト」を締結し、取引を開始しました。

新規工場の承認プロセス

新規工場の承認プロセス

既存工場の定例アセスメント・モニタリング

ファーストリテイリングは、取引を開始した工場に対して、定期的な労働環境モニタリングを実施し、コードオブコンダクトの遵守状況を確認しています。

労働環境モニタリングの仕組み*

労働環境モニタリングの仕組み

*ベターワークの監査を実施している工場の評価・改善フローは、この限りではありません。

アセスメントの手法

ファーストリテイリングが求める労働環境基準を追及すると同時に、一つの工場に対して複数のブランドが独自の監査を行うことで生じる過剰な負担を減らし、工場による自主的な労働環境マネジメントシステムを強化するため、モニタリングプログラムの最適な設計を継続的に検討しています。現在、第三者機関による抜き打ち監査のほか、アパレル・フットウェア業界共通のフレームワーク「SLCP:Social and Labor Convergence Program(労働環境基準統合プログラム)」によるアセスメントや、国際労働機関(ILO)と国際金融公社(IFC)の共同活動プログラム「ベターワーク」による監査を併用しています。いずれの方法でも、ファーストリテイリングの基準に基づき工場の労働環境を評価し、リスクの深刻度に応じた改善活動を行っています。

2023年8月期は縫製工場と主要素材工場を合わせて616工場を対象に監査*を実施しました。
* SLCPの自己評価・第三者検証、ベターワークの監査、第三者機関の抜き打ち監査

SLCPのアセスメント

SLCPは、業界共通のフレームワークを作成し、提供している団体です。SLCPによるアセスメントは、サステナブル・アパレル連合(SAC)が開発したHiggインデックスの一つである「工場労働環境モジュール(FSLM: Facility Social and Labor Module)」のプラットフォームを通じて行われます。工場は、SLCPの評価ツールを使用して自己評価を行い、第三者機関による検証(第三者検証)を受け、改善に取り組みます。評価ツールには、労働環境の各評価項目について、方針、社内体制、手順書とその周知、実行状況のレビューと改善など、労働環境マネジメントシステムを強化するための指標が多く盛り込まれています。監査を主とする従来のモニタリングプログラムでは、監査の指摘事項の是正が活動の中心になりがちでしたが、SLCPを活用することで、工場が自社の仕組みを通じて労働環境の課題を把握し、改善を実行するサイクルの構築が期待されます。また、工場は、評価ツールのデータを複数のブランドと共有することができるため、年間の監査数が減少します。

SLCPのアセスメントは毎年実施されます。ただし、SLCPの規定に従い、過去の監査・アセスメントやホットラインの結果などを踏まえてリスクが低いと判断された場合は、自己評価・第三者検証を2年ごとの実施とすることができます。第三者検証では、検証機関が工場を訪問し、工場従業員、労働組合、従業員代表、経営者層などへのインタビュー、労働協約や諸記録のレビュー、現場視察による労働安全衛生状況などの確認を行います。ファーストリテイリングは、第三者検証を受けたアセスメントレポートを工場から受け取り、「生産パートナー コードオブコンダクト」に照らして工場の評価を行います。

関連リンク

ベターワークによる監査

一部の工場では、国際労働機関(ILO)と国際金融公社(IFC)の共同活動プログラム「ベターワーク」による監査を実施しています。アパレル業界で広く導入されているベターワークの監査を受けることで、工場は監査の重複を減らすことができ、労働環境の改善により注力することができます。

関連リンク

第三者機関の抜き打ち監査

SLCPやベターワークの監査の対象とならない工場は、第三者機関による抜き打ち監査の対象となります。監査は原則として年1回実施します。監査では、監査員が工場を訪問し、従業員代表、労働組合代表、経営者層などへのインタビュー、労働協約や契約書、給与明細、出勤簿、タイムカードといった諸記録のレビュー、現場視察による労働安全衛生状況などの確認を行います。宿舎がある場合は、宿舎も確認の対象となり、宿舎で労働者のインタビューを実施することもあります。監査のオープニングとクロージングの際には従業員代表や労働組合代表も参加し、労働者の声を評価に反映できるようにしています。

監査項目と評価

ファーストリテイリングは、著しく人権を侵害する問題に対して、ゼロトレランス方針を採用しています。ゼロトレランス項目に該当する主な事象は、児童労働、強制労働、抑圧とハラスメント、差別、組合結成の妨害、最低賃金未達、虚偽報告などです。これらは最も深刻な問題であり、検出された場合は、直ちにその問題を是正することが求められます。また、労働環境マネジメントシステムの不備により発生する、残業代の支払いや法定休暇の付与、契約書の管理などにおける深刻な問題を、重大項目として定めています。重大項目が検出された場合は、工場に早期の改善を促します。

• 主なゼロトレランス項目:
児童労働、強制労働、抑圧とハラスメント、差別、建物の安全性欠如、組合結成の妨害、ストライキの不当な解散、苦情を申し立てた従業員に対する報復行為、賃金の不払い、最低賃金未達、火災などの緊急事態への対策不備、虚偽報告などの透明性に関する問題、賄賂、工場の監査対象範囲の申告漏れ、未承認の委託先や家内労働者への外注

• 主な重大項目:
残業代の支払い不足、法定休暇を付与していない、休業中の賃金不払い、社会保険料の未納付、長時間労働、法令に従った休憩を与えていない、雇用契約の未締結や内容不備

ゼロトレランス項目や重大項目のほか、「生産パートナー コードオブコンダクト」に規定する幅広い項目が監査の対象となっています。例えば、労働者の健康と安全性、賃金と諸手当、長時間労働、苦情処理制度、女性労働者、外国人移住労働者、若年労働者、社会的少数者などの縫製産業のサプライチェーンに共通する社会的弱者への配慮などです。

労働環境モニタリングの結果に基づき工場を評価し、毎年結果を開示しています。2023年8月期から、①重大項目・ゼロトレランスなし、②重大項目あり、③ゼロトレランスあり、の3段階の評価を行っています。労働環境モニタリング結果については下記をご覧ください。

是正措置

ゼロトレランス項目が検出された場合、もしくは、重大項目が2回連続して定例アセスメントで検出された場合は、工場との取引見直しの可否を判断するため、企業取引倫理委員会に上程されます。同時に、工場と問題の解決策を検討し、是正が完了するまで状況を確認します。企業取引倫理委員会では、当該工場の経営・雇用状況も踏まえた審議が行われ、取引の見直しの可能性について生産部門に勧告します。その後のフォローアップ監査で問題の是正が確認されなかった場合は、取引停止となります。ファーストリテイリングは、取引の見直しや停止につながる重大な人権侵害が発生しないよう、工場とともに未然防止に努めています。

重大項目が検出された場合は、工場に早期の是正を促します。一定期間内にファーストリテイリングの従業員が工場を訪問し、工場に対して適切なマネジメントシステムの導入と徹底的な再発防止を求めています。次回の定例アセスメントで、問題の再発を防止する仕組みが構築されたことを確認します。

ファーストリテイリングのモニタリングプログラムマニュアルと生産パートナー向けガイドブックには、是正措置の実行プロセス、監査後の是正タイムライン、根本原因の分析方法などが規定されています。工場において問題を未然に防止するための具体策が確実に策定・実行されるよう、工場に対して、公正労働協会(FLA)の原因分析ガイダンスをはじめとするさまざまな資料提供や支援を行っています。全体の監査結果や特に指摘が多い項目については、各ブランドの調達関連部署や工場にも共有しています。

外注先工場の労働環境モニタリング

ファーストリテイリングは、「生産パートナー コードオブコンダクト」において、ファーストリテイリングの事前承認を得ていない工場への生産委託を禁止しています。縫製工場の定例アセスメントにおいて、承認を受けた外注先工場のみを使用しているかを確認しています。

縫製工場には、生産工程の一部を委託する外注先工場に対して第三者機関による監査を実施し、ファーストリテイリングから承認を得るよう義務づけています。外注先工場は毎年監査を受け、ゼロトレランス項目が検出された場合は、ファーストリテイリングと合意した期間内に是正し、再監査を受けて合格する必要があります。

労働環境モニタリング結果

2023年8月期における縫製工場の労働環境モニタリング結果は以下のとおりです。

「ゼロトレランスあり」の評価を受けた工場で確認されたゼロトレランス項目は、マネジメントの組合への関与、パワーハラスメントへの未対処、若年労働者の1日の規定労働時間超過労働、有給休暇・特別休暇計算不備、外国人技能実習生による雇用手数料負担などです。「ゼロトレランスあり」の評価は、2023年8月期14工場と前期から5件増加しました。これは、2023年8月期において移住労働者に対する差別的な処遇や労働環境に関する基準を厳格化し、移住労働者による雇用手数料(渡航費用やパスポート更新費用など)の負担もゼロトレランス項目としたことが影響しています。14工場すべてと改善、再発防止について合意し、2024年2月末までに10工場で改善が完了したことを確認しました。残り4工場の内、2工場は概ね改善が完了しているものの引き続き改善に取り組んでおり、2工場は取引を終了することとなりました。

「重大項目あり」の評価を受けた工場で確認された主な重大項目は、残業代や手当の計算不備などの「賃金と諸手当」(指摘された重大項目の55%)、長時間労働や労働時間の管理不備などの「労働時間」(同19%)、雇用契約書の記載内容の不足などの「雇用・採用管理」(同11%)でした。合計191件の重大項目が確認されましたが、すべてについて工場と改善計画を合意し、工場が改善に取り組んでいます。ファーストリテイリングの従業員が工場を訪問し、改善の進捗を確認しています。

そのほか、「生産パートナー コードオブコンダクト」の項目のうち、「健康と安全性」と「労働時間」に関する指摘事項が多く検出されています。問題の改善や予防に向けて、以下の取り組みを行っています。

健康と安全性

健康と安全性の領域で見つかる問題は、防火安全や労働安全衛生、化学物質管理など、多岐にわたります。これらに対し、生産パートナーへのトレーニングを定期的に実施し、現地法令やファーストリテイリングの労働安全衛生基準、ベストプラクティスなどを説明しています。また、工場に対して、問題への対処を求めると同時に、労働安全衛生の管理体制構築、防火対策や建物安全性の定期診断の導入といった、問題を未然に防ぐための仕組みの構築も求めています。サステナビリティ部の工場労働環境改革チーム(以下、サステナビリティ部)が工場を訪問する際は、防火設備の設置状況を確認し、問題がある場合は早急な改善を求めています。

また、ファーストリテイリングは、縫製工場におけるビルの崩壊や火災事故を防止するためのイニシアティブ「繊維・縫製産業における健康と安全のための国際協定(旧バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定)」に署名しています。

関連リンク

労働時間

工場従業員の労働時間を定例アセスメントで確認することに加え、工場とファーストリテイリングの関係部署が協働して、工場における過度な労働時間の撲滅に向けて取り組んでいます。

工場は従業員の労働時間を削減するため、生産計画の立案方法を見直すと同時に、生産ラインの自動化、従業員のスキルアップトレーニングの実施、生産性と連動した報酬制度の採用など、生産効率の向上に取り組んでいます。長時間労働の発生が見込まれる場合は、工場には事前に生産部に連絡するよう依頼しており、生産部は可能な限り生産計画の調整などを行います。

ファーストリテイリングは、工場における労働環境を守り、工場従業員の人権を尊重するため、適切な手順に従って発注を行うことを規定した「責任ある調達方針」を策定しています。責任ある調達を推進するために、主要ブランドの調達業務に沿ったガイドラインも作成しています。主要取引先に対しては年次調査を行い、当社の発注が工場の労働時間の改善を遅らせるような過度な負担につながっていないか、ヒアリングを行っています。工場からのフィードバックは、生産部とサステナビリティ部で確認し、残業時間の根本原因を解決するための施策を検討します。

生産部は、主に縫製工場について、過度な労働時間が発生する根本原因を特定し、改善計画を策定します。その上で、毎月、工場の全従業員の週単位の労働時間実績を収集し、改善進捗を確認しています。

サステナビリティ部は、改善計画の進捗を確認し、必要に応じて工場を訪問して、労働時間の実績を確認しています。社内で定期的に進捗確認会議を実施し、工場の改善状況を共有しています。工場と密にコミュニケーションを取りながら改善状況を確認するとともに、労働時間が削減されることによって工場従業員の収入が損なわれないよう、賃金と福利厚生を維持する施策について他社事例の工場への共有などを行っています。

これまでの取り組みを通じて、多くの工場で長時間労働の改善がみられました。今後も、工場従業員の労働時間の適正化に取り組んでいきます。

関連リンク

労働環境モニタリングプログラムの改善

定例アセスメント結果を分析することで、労働環境モニタリングプログラムの効果測定を行っています。分析結果に基づき、労働安全衛生、賃金と福利厚生、労働時間などの重点領域における指摘件数の削減とスコアアップを目標として設定しています。

生産パートナーの従業員がファーストリテイリングに直接相談できるホットラインも設置し、アセスメント以外にも課題を特定する方法を導入しています。少なくとも年に2回、緊急度の高い課題、国や地域特有のリスク、高リスク工場の改善支援状況など、取り組みを通じて把握した傾向やリスクが経営陣に報告され、必要に応じて人権委員会やサステナビリティ委員会に上程されます。

上記およびFLAから得た意見や助言、また、ベターワークなど外部団体との取り組みなどの過程で得た気づきは、検討のうえ、プログラムの改善に反映されます。例えば、ファーストリテイリングホットラインに寄せられた意見を分析し、工場内の苦情処理メカニズムを強化したり、工場経営者が自ら問題を発見、調査、解決したりできるように労働環境モニタリングプログラムを改善しました。

さらに、国やブランドごとに、定例アセスメントの合格・不合格数や違反傾向を分析しています。こうした傾向分析とあわせて、主要な生産国ごとの課題を整理し、改善策を策定しています。各国の課題の優先順位は、ステークホルダーエンゲージメントの結果やビジネス戦略との整合を図りながら設定しています。

ページトップへ