最終更新日: 2024.03.22
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ファーストリテイリングは、サプライチェーンで働く人々に向けた、人権に関する通報窓口を設けています。人権侵害に関する相談に対しては、さまざまなパートナーと協働し、相談者の救済に取り組んでいます。
工場における苦情処理メカニズム
ファーストリテイリングは、「生産パートナー コードオブコンダクト」を通じて、工場に対して従業員の苦情に対応するための仕組み(苦情処理メカニズム)の導入と、公正労働協会(FLA)の基準などを踏まえた適正な運営を求めており、その遵守状況を労働環境モニタリングで確認しています。
国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」では、有効な苦情処理メカニズムの8要件を定義しています。8要件とは、「正当性がある」「アクセスすることができる」「予測可能である」「公平である」「透明性がある」「権利に矛盾しない」「継続学習の源となる」「エンゲージメントおよび対話に基づく」です。ファーストリテイリングは、工場に対して苦情処理メカニズムのガイドラインを配布し、その中でこの8要件を満たすよう求めています。また、ファーストリテイリングの生産パートナー向けガイドブックでは、苦情処理メカニズムの要件として以下を定めています。
- 苦情処理に関する手続きを文書化する。苦情処理の体制やプロセス、苦情を申し立てた従業員に対する処罰や報復の禁止などを明確に定める。
- 機密保持を前提とし、匿名で通報できる窓口を少なくとも1つ設ける。
- すべての従業員が、苦情処理メカニズムと関連規定を理解するための施策を実施する。管理者や一般従業員を含むすべての従業員に対し、導入研修および定期的な研修を実施し、その記録を保管する。また、知識の習得度をアンケートやインタビューなどで確認し、その記録を保管する。
- 苦情に適時に対応するため、苦情処理の状況および結果を記録する。
- 国と地域の法律・規範の変化や、内部・外部監査結果に応じて、苦情処理に関するすべての方針や手順書を適宜見直す。
これらの要件の遵守状況については、労働環境モニタリングで確認しています。
ファーストリテイリングによる工場従業員向けのホットライン
主要な縫製工場および素材工場の従業員や従業員代表が、匿名かつ現地語でファーストリテイリングに直接相談できるホットライン(ファーストリテイリングホットライン)を、上海、ホーチミン、ジャカルタ、ダッカ、東京などに設置しています。
ホットラインへのアクセス
ホットラインの連絡先は現地語で案内しています。 工場には、工場内の目につきやすい場所にホットラインの案内ポスターを掲示すること、従業員に対して問い合わせ方法を説明すること、通報した従業員に不利益を与えたり、報復行為を行ったりしないことを要請しています。また、第三者機関による監査やサステナビリティ部の工場労働環境改革チーム(以下、サステナビリティ部)の訪問の際にインタビューを受けた従業員には、連絡先を記載したカードを渡しています。
ホットラインの運用プロセス
相談が寄せられた場合、ファーストリテイリングは、原則24時間以内に、携帯電話のショートメッセージ機能や電子メール、電話などの現地の状況に応じた方法で相談者に回答します。また、相談内容をレビューし、調査や解決の進め方を手続きに従い決定します。その後、調査を行い、問題点を把握して是正措置を検討します。
調査の結果、人権侵害に該当すると判断された場合は、ILO中核的労働基準、現地労働法、「生産パートナー コードオブコンダクト」などをもとに、サステナビリティ部と生産部が中心となって、対応策や改善策を工場に要請します。対応について工場と合意した後、対応策の内容と工場から合意を得ている旨を相談者に通知します。相談者には、対応策が実行されない場合や、再度問題があった場合は、ファーストリテイリングに連絡をするように伝えます。
対応策が実行されたか否かは、サステナビリティ部が工場訪問時に確認します。サステナビリティ部が確認した結果、改善が不十分と判断した場合は、企業取引倫理委員会に工場との取引見直しを上程します。取引見直しとなる場合も、対応策の実施について工場に働きかけを行うことで、相談者の救済に向けて取り組んでいます。
相談内容の深刻度や複雑性などによって解決に要する時間は異なりますが、外部機関に調停を要請する場合や、工場で再発防止の仕組みを構築するために数か月かかる場合などを除き、可能な限り短期間(数か月以内)で解決するよう努めています。
相談者の保護
相談内容は機密情報として扱われます。ファーストリテイリングの従業員は、機密情報の漏洩禁止と適切な情報管理を定める「ファーストリテイリンググループ コードオブコンダクト」の遵守を誓約しています。ホットラインの運用にあたっては、通報者のプライバシーを保護するとともに、報復行為を禁止し、不利益な取り扱いは一切認めていません。また、相談者の関係者と適切にコミュニケーションをとり、迅速かつ一貫性のある対応に努めています。ホットラインが適切に運営されているかを定期的に認しており、例えば、サステナビリティ部の責任者は、相談者の通報後に担当者が迅速に折り返し連絡を行ったか、相談者が納得できる期間内に対応を完了させたか、などを管理しています。
ホットラインの運用プロセスの改善
ホットラインの相談内容や対応は少なくとも年1回人権委員会に報告され、人権委員会は運用プロセスの改善案などの提言を行います。特に深刻な案件については、対応内容への助言や予防策の提言を行います。サステナビリティ部は、人権委員会の提言を踏まえ、運用プロセスの見直しを行います。
UNGPの8要件に照らしてホットラインの自己評価を行ったところ、特に、「アクセスすることができる」「公平である」ことに課題があることがわかりました。これらに対して、ホットラインをより認知してもらうため、工場で移住労働者が働いている場合に母国語でホットラインを案内できるよう、ポスターを多言語で作成しています。
2020年より、当社のホットライン改善に向けた施策を検討するため、労働組合員や従業員代表を含む、工場従業員からの意見聴取を行っています。これまで、工場による定期的な説明やポスター掲示がホットラインの周知のために有効である、などのコメントが得られています。工場による定期的な説明の強化や、ポスター掲出状況の再確認を実施し、認知度のさらなる向上に努めています。
工場ホットライン運用プロセス
ファーストリテイリングホットラインの運用プロセス
人権侵害に関する相談
2023年8月期にファーストリテイリングホットラインに寄せられた相談のうち、ILO中核的労働基準、現地労働法、「生産パートナー コードオブコンダクト」違反にあたるものは43件ありました。そのすべてについて、2023年12月末までに対応を完了しました。
ファーストリテイリングは、人権侵害を未然に防止するため、これまでに受け付けた相談内容を分析し、改善につなげています。例えば、「賃金と諸手当」に関する相談の多くは、工場従業員にとって、賃金の制度や計算方法、退職金の支払いやその手続きが不明瞭であることが主な原因であるため、工場に従業員への十分な説明の実施を促しています。
また、相談件数が多い工場に対しては、工場が運営する苦情処理システムを強化するためのトレーニングや、工場による改善の計画立案・実行プロセスを確立するサポートを行っています。
2023年8月期ファーストリテイリングホットライン相談案件*の内訳
*寄せられた相談のうち、ILO中核的労働基準、現地労働法、「生産パートナー コードオブコンダクト」の違反に該当するもの
相談事例
ホットラインその他の手段を通じて当社に相談のあった事例は、以下の通りです。
- 事例1(カンボジア)
2021年、取引先工場が工場の一部の施設を新しい会社として登記する際、従業員代表から、この施設で働く従業員が解雇されてしまうのではないか、という懸念の声が寄せられた。ファーストリテイリングは、外部の調停者の支援のもと、労働組合および従業員代表と工場経営者との対話を促した。工場経営者は、新会社登記にあたり従業員の解雇をしないこと、新しい会社でも従前の権利が保障されることを丁寧に説明し、従業員の理解を得た。その後、工場経営者は、労働組合との週次会議を開始し、労働条件などを協議する場としている。 - 事例2(ベトナム)
2022年、工場従業員より、上司に退職希望を伝えたが、さらに数か月仕事を続けるように言われているとの相談が寄せられた。ファーストリテイリングが現場調査をしたところ、工場は新型コロナウイルス感染拡大の影響による人手不足に直面しており、退職防止の取り組みを実施した結果、生産ラインリーダーが従業員の自由な退職を認めないという状況が生まれていることがわかった。ファーストリテイリングは、工場に対し、従業員の法的権利を侵害しないこと、退職防止の取り組みを改善することを求めた。当該従業員は、希望した時期に退職できることになり、工場経営層および人事部は退職防止の取り組みと退職手続きの見直しを行い、従業員に通達の上、トレーニングを実施した。 - 事例3(バングラデシュ)
2022年、生産ラインリーダーがその部門の女性従業員に対して指示をする際、暴言を発したり、体を触ったりするとの相談が寄せられた。ファーストリテイリングの現場調査の結果、事実であることが確認された。ファーストリテイリングは、工場に対し調査委員会の設置および調査報告書の提出を要請した。調査委員会は、事実であることを確認し、当該ラインリーダーに顛末書を提出させた上で、改善を誓約させた。調査委員会は、今後の言動の改善状況を注視していくとしている。通報者には結果を伝え、工場の対応に納得したとの回答があった。 - 事例4(インドネシア)
2023年、従業員から労働組合での活動を理由に異動させられたという相談が寄せられた。工場は当該従業員の異動は業績評価に基づくものであると説明していた。ファーストリテイリングは、ベターワークのアドバイザーと協働し、従業員、工場および労働組合代表と話し合いの場を設け、背景の理解と解決策について議論した。その結果、結社の自由についての研修を再度実施することで工場と合意し、従業員は異動先の部署で勤務を継続することで合意した。 - 事例5(バングラデシュ)
2023年、工場の元従業員より、法令および工場規則に従い、退職届を提出したが、工場から期限内に給与等の支払いを受けていないなどとの相談が寄せられた。ファーストリテイリングは、工場に該当月の退職者リストの共有を求めて事実確認を行うと同時に、給与の未払いについて工場と議論した。工場は当該元従業員に給与その他の支払いを行い、工場が支払いを行ったことを確認した。