
店舗とデジタルにおける
ブランド体験を最大化させていく。
Masaki Kobayashi
SPECIAL 04
社員たちの「使命」と「実行」
ミッション・業務内容
アパレル業界で店長やバイヤーを務め、その後、キャリアの大半をEコマース(以下、EC)事業で築き上げてきた小林が、いま、力を注いでいるのがセオリーのEC本業化と、店舗とECの融合の実現だ。すでに店舗で接客に力を入れ、多くのお客様の支持を得ているセオリーでECの強化を進めることは、「可能性しか感じない」と小林は話す。
黎明期につかんだ
ECの手応え。
「試着できない」ことはハードルではない
もともと在籍していた企業でEC事業を始めたのは、まさにECの黎明期でした。当時、アパレル業界含めEC事業については手探りの状態で、各社ともにその可能性を見越してEC事業を立ち上げたものの、勝ち目が見えていたわけではありませんでした。
当初、私は、バイヤーの経験を生かし、ECで売れそうなものを自分で探しては、コツコツと販売していました。少しでも実績を作らないと、社内の理解も得られず、事業も成功しないと思ったからです。そこで、はじめは靴の販売で実績を積み重ねていきました。一方で、ECは、お客様が試着できないというハードルもあり、品質の良さが特徴の商品であったとしても、自分に似合うかどうか、ご判断いただくことが難しい。試行錯誤した結果、何かのきっかけで話題になると、思いもよらない商品がECで売れるということに気がつきました。そのきっかけを作るために企画したのが予約販売です。当時は、リアル店舗で商品を予約する仕組みがなかったため、大きな話題につながりました。また、商品を紹介する画像も重要だということに気がつきました。プロのモデルさんが着用した画像を掲載するより、店舗スタッフが試着した画像のほうが、より親しみやすく、お客様の反応も好意的でした。
様々なトライアルを重ねるなかで、一番の収穫は、店舗との「相互送客」が実現できたこと。ECを見て商品に興味を持ってくださったお客様が、その商品を実際に確認するため、店舗に足を運んでくださるケースが徐々に増えていきました。ECでは試着できないことはハードルではなく、逆にチャンスだったというわけです。

ECでも「接客販売」がキーワード。
セオリーのデジタルシフトを加速させる
かつて、ラグジュアリーブランドの服を手にするためには、都心部の百貨店や路面店に足を運ぶ必要がありました。その後、郊外にアウトレットストアやショッピングセンターが誕生し、さらにオンラインで商品が手軽に購入できるECが登場したことで、アパレル業界のビジネスも大きく変わりしました。ECも、当初はパソコンからしかアクセスできませんでしたが、それがスマートフォンへと変わり、今ではフリーマーケットサイトやオークションサイトを通じたお買い物が日常となっています。
こうした変遷は、私が業務を通じて目のあたりにしてきた光景とも重なります。今では、お客様が「何か買いたい」と思ったら、手元のスマートフォンで瞬時に価格もデザインも検索でき、その場で購入できます。一方、ブランドとしては、それに対応した魅力的なコンテンツやプロダクトを提供し続けない限り、勝ち残っていけないシビアな状況にあります。しかし、このような状況で多くのお客様に支持されることがEC事業のやりがい、面白さだと考えています。
私がリンク・セオリー・ジャパンに転職したのは、「デジタルシフトを加速させたい」という会社の目標を知り、これまでのキャリアを生かし、EC事業、そして自分の成長を積み重ねていけると考えたからでした。セオリーは、比較的、価格の高い商品を扱うブランドですが、売上も良く、業績も伸びていました。セオリーをより良いブランドにしたい。そう強く思い、転職を決めました。
接客ツールの導入を模索
入社後、デジタルマーケティング部長として、まず、最初に取り組んだのは、アプリ会員の獲得と情報発信の強化です。営業スタッフと店舗スタッフとともに、アプリのプッシュやメールマガジンを活用し情報を発信し続けたことで、これらを通じた売上も伸びていきました。そこで実感したのは、セオリーは、「お客様の声」が集まりやすいブランドであるということです。店舗のていねいな接客を通じて満足度の高い購買体験を提供し続けることで、多くのお客様との信頼関係ができている結果だと、強く感じた瞬間でした。
今後、さらにデジタルシフトを加速させ、店舗とECの相互送客、そして融合を実現するためには、店舗だけではなく、デジタルにおいても「接客販売」が重要なキーワードになります。そこで今、進めているのが接客ツールの導入です。高価格の商品をお客様に購入していただくためには、お客様に商品の価値を知っていただき、納得して購入いただくことが大切です。
例えば、スマートフォンでSNSなどを活用し、販売スタッフが接客サービスをしながら、お客様にECサイトで商品を選んでいただき、購入していただく「ライブコマース」や、メールやチャットに留まらず、ビデオ通話で接客する「コールセンター」など、今、様々な構想を練っているところです。実際に商品に触れなくとも、このような新しい購買体験を提供することで、多くの方々にブランドの魅力を知っていただきたいと考えています。
目指すは
ECのフラッグシップ化。
価値を最大化する
これまでの私の経験を振り返って感じるのは、EC事業で新しいことを企画、実行していくことは、店長としての使命を果たすことと同じだということです。社内でEC事業への異動を希望する従業員から、よく、「私は何から準備をしたらいいでしょうか?」と聞かれるのですが、毎回、私はこう答えています。「店舗でナンバーワンの店長になってください」と。
商品の紹介など、ECに掲載されているコメントは店舗における「接客」であり、画像は、商品の陳列、決済は会計時のサービスにあたります。つまり、店舗でこれらの取り組みをブラッシュアップしながら、売上を伸ばし、スタッフを育て、お客様に必要とされる店に発展させるという経験が、そのまま、ECの業務にも置き換えられるのです。
例えば、デジタルマーケティング担当だからと言って、お客様がどんなものを求めているのかを知らずに業務に取り組んでも独りよがりに過ぎず、的の真ん中を射抜くことはできません。ターゲットを絞り、それに対して価値を最大化したものを提案してはじめて、本当の意味で、服を通じてお客様の日常を豊かにすることができます。
セオリーは、すでに商品や接客販売において、高いレベルで実践しています。これを、EC事業においても同じレベルにまで引き上げることが、私たちのチームの使命だと感じています。


新しいサイクルを生み出す
ファーストリテイリンググループは、ユニクロやジーユーなど複数のブランドを運営しています。なかでもセオリーは、ニューヨーク発のアフォータブル(手の届きやすい)ラグジュアリーブランドという、他のグループブランドと異なる位置づけにあります。
今後、私たちが力を注ぐのは、ユニクロやジーユーが実践している、「お客様がどんな商品をほしがっているのか」という情報を、できるだけ多く集めることです。そうすることで、「知る、作る、売る」という効率的なサイクルを生み出し、情報製造小売業としての役割を果たしていけると考えています。
そのために実現したいのが、EC事業を本業化させ、「フラッグシップ」(旗艦店)にすることです。ECが起点となり、店舗とECの双方でお客様にとって満足度の高いサービスと購買体験を提供できるようになれば、セオリーのみならず、ファーストリテイリンググループ全体にも、これまでにないシナジー効果をもたらすことができると信じています。

小林 昌樹
Masaki Kobayashi
リンク・セオリー・ジャパン デジタルマーケティング部 部長
2020年にリンク・セオリー・ジャパンに中途入社。学生時代のアルバイトからアパレル業界に携わる。キャリアの大半をEC事業で積み、入社後、デジタルマーケティング部部長に就任、現在に至る。