FAST RETAILING

異なる“常識”を
持っていたとしても、
同じ“使命感”を共有できる仲間を
世界中に増やしていきたい。

Satoshi Naito

SPECIAL 03

社員たちの「使命」と「実行」

ミッション・業務内容

FRMICとはFast Retailing Management and Innovation Centerの略称で、「未来をつくる経営者を育てる教育機関」だと統括部長の内藤は解説する。ミッションは「経営者の育成」「全社改革の推進」「グローバルワンの実践」の3つに大別できるそうだが、それもひとえに同じ価値観を共有する仲間、同志を世界中に増やすことにあると、楽しそうに語る。

それぞれが自分の手で母国に店を。

ファーストリテイリングの社員として同じ価値観で結ばれた絆

長くヨーロッパで勤務してきましたが、振り返ると失敗続きでしたね。忘れもしないのはイギリスでの新店オープンを任されたときのこと。「みんな、僕についてきて。信じてくれれば成功させてあげるから」と言いながら、和太鼓演奏とともに華々しくテープカットをやってオープンさせたのに、待てど暮らせどお客様が来ない。現地スタッフたちが私に向ける冷めた視線が辛かったし、恥ずかしかった。

何とか挽回し、お客様に来店いただける店にしようと、ハイストリートにある人気店のレイアウトやマネキンなんかを真似したりしたんですけど、やればやるほど何屋なのかわからなくなっていく(笑)。何とか現状を打破しなければという思いが空回りし、上手くいかないことばかりを必死に繰り返しているような有り様でした。

ただ、私のそうした行動に「彼は本気だな」と感じてくれた現地のメンバーたちが、一人、また一人と歩み寄ってきてくれた。私は素直に伝えました。「降参です。この国のことを私に教えてください」と。それ以降、彼ら彼女らとは本当にいろいろなことを話しました。商売のことはもちろんですけど、イギリスというお国柄、みんなの出身国も様々でしたから、母国のことや自分たちの生い立ち、夢や希望など、話が尽きませんでした。

こうして過ごした時間が、ファーストリテイリングの社員として同じ価値観で結ばれた絆を生み出していきました。ドイツ人のメンバーが主体となって、母国での新店立ち上げを無事に成功させたときには、誰もが我が事のように喜びましたし、みんなが口々に同じことを言いました。「次は自分の手で、母国に店をオープンさせたいな」って。

私はこのとき確信にも似た予感を抱きました。こうした仲間を世界中にひとりでも多く増やしていけたら、ファーストリテイリングは本当に「世界一」になれるかもしれないと。

絶対基準は「価値観・理念」。

「価値観・理念×スキル・能力×実行力」という掛け算

FRMICがユニークなのは、柳井社長直轄の部署として機能することで、経営・人事・FRMICが三位一体となって、世界の全社員を経営者に育てるための教育に力を注いでいる点です。

ファーストリテイリングが世界で最も必要とされる企業になるためには、世界で一番経営者を輩出している企業にならなければいけない。それも数だけではなく質の部分も含めて。そのためには採用、抜擢、教育を連動させることで、社員を経営者へと育成する必要がある——。以上のような考えが、こうした取り組みの背景にあります。

私もヨーロッパで事業拡大を図りながら感じたことですが、ファーストリテイリングの価値や服をもっと世界に広めたくても、なかなかそれを果たせない実状があります。それはこの会社にチャンスがないからではなく、それを広げられる経営者が不足していることが理由です。といっても、世界に優秀な人はたくさんいます。ただ、私たちが掲げる使命を理解し、共感し、実行できる力のある経営者となると、話は違ってきます。

ファーストリテイリングにおける成果、結果というのは掛け算によって生み出されると、私たちは考えています。「価値観・理念×スキル・能力×実行力」という掛け算ですね。よって、「スキル・能力」や「実行力」がいくら高くても、「価値観・理念」が「0」だと、その積である成果、結果も「0」になってしまうということです。

現地の人たちの手でローカライズしていく

「価値観・理念」というのは、理解を得ることはできても、共感を得ることは本当に難しい。とりわけ海外では、そうですね。先だってユニクロはインドへの進出を果たしましたが、現地出身の優秀な人材に恵まれたにも関わらず、この点でとても苦労しました。

ファーストリテイリングでは職位に関係なく、みんなで店舗の清掃をします。売場を清潔に保つことは、「顧客起点」「全員経営」の基本中の基本だからです。ただ、これが諸外国では意外にも理解されにくい。なぜかと言えば、海外では「自分の仕事の責任範囲」というのが明確で、清掃をすることは「他の誰かの仕事」であって「自分の仕事」ではないと考えるからです。

しかし、ここで彼ら彼女らの考えに従い専門スタッフを配置し、清掃を誰かの手に委ねてしまったら、自分たちの基本を自らないがしろにすることとなり、ますます「価値観・理念」の共感を得られなくなってしまう。だから私たちとしても、現地のメンバーたちにその理由を何度も説きましたし、インド事業にアサインされた主要メンバーたちも率先して範を示していきました。

そうすると、かつて私がイギリスで経験したように、私たちの「本気」を感じて歩み寄ってきてくれるメンバーが現れる。やがてそのメンバーたちは、清掃の真意を身をもって理解し、現地の言葉で現地の人たちに、その意味を伝える。私のような異国の日本人が語る言葉と、同じインド人が語る言葉とでは、現地の他のメンバーへの影響力が違います。

ファーストリテイリングがグローバル企業として世界に存在価値を提供していくためには、日本発、日本人発では限界があります。この会社の「価値観・理念」をしっかり共有した現地の人たちの手によってローカライズしていかなくては、進出先の地域社会に貢献できる企業にはなれない、そう考えています。

これからが
真骨頂を示すとき。

仕事の枠を越えた、人生における貴重な財産

自分がマジョリティーに属しているとき、みんなと同じことをするのは簡単です。でも、自分がマイノリティーとなって、みんなと違うことを実行するには信念が必要です。

恥ずかしながら、ファーストリテイリングの「価値観・理念」を誰よりも体現すべき私でしたが、先のインドではそれが揺らぎました。親御さんから「子どもに清掃をさせるために、必死になって高等教育を受けさせたのではない」と言われたときは、少なからず動揺しました。私たちの価値観は、インド社会でも絶対に正しいと言えるのか……。

だから今、ファーストリテイリングが進出する26の国と地域で、この会社の「価値観・理念」を心底理解し、自分の言葉で自分の国のメンバーたちを叱咤激励しながらリーダーシップを発揮している現地社員の様子を見聞きする度に、私は無性にうれしくなります。

ついでにお話しすると、イギリス駐在時に苦楽をともにしたイギリス人、ドイツ人、イタリア人、ベルギー人、スウェーデン人といった仲間たちは今、それぞれの母国で活躍しています。そして彼ら彼女らもまた、個々に自分たちの仲間、同志を増やしています。みんなとは今でも頻繁に連絡を取り合う仲ですが、同じ志をもった仲間が世界中にいるという事実は、もはや仕事の枠を越え、自分の人生における貴重な財産であることを教えられます。

要領が悪くてもいい、不器用だって構わない

これからファーストリテイリングという船が漕ぎ出す海は、大しけが予想されています。これまでのような先進国同士、東アジア同士といった共通の海図もありません。でも、その航海の先には、私たちの真骨頂を発揮できる大陸が広がっています。発展途上にある国々でも、裾野の広い繊維産業を隆盛させることで生活を豊かにすることに貢献し、各地域でリーダーシップを発揮できる経営者を育てることで、その国の発展に寄与できたら——。私も夢が膨らんでいくばかりです。

それを着実に実行していくためにも、私はこれからも同じ価値観を共有する仲間、経営者を世界中に増やしていきたい、それも今まで以上のスピードで。これが自分の使命であり、自らの人生を豊かにする、まさに生きる意味だと思っています。

後進の人たちにお伝えしておきたいのは、要領が悪くてもいい、不器用だって構わないということ。たくさん挑戦し、たくさん失敗すればいい。そうした試行錯誤、悪戦苦闘の積み重ねは、きっと自分を鍛えてくれるはずだし、数々の失敗によって他者の痛みを知る人間味あふれるリーダーには、往々にして強力な仲間がついてきてくれるということです。

UNIQLO

内藤 聡

Satoshi Naito

FR Management and Innovation Center 統括部長

2002年に新卒で入社。社内公募制度を利用し、入社2年目にしてイギリスに駐在。帰国後、日本でスーパーバイザーなどを経て、2011年に再びイギリスへ。ドイツ事業を立ち上げ、COOを務めた後、2018年より現職。

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