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わずか7店舗から500店舗超へ──中国・ユニクロ10年の歩み
国境を越える「LifeWear」への共感

2002年9月、上海への出店を契機に進められてきたユニクロの中国での店舗展開。2017年2月末現在、514の店舗が中国各地で営業しています。
現在、上海FR-MIC(ファーストリテイリング マネジメント アンド イノベーションセンター)部長を務める木原聡(きはらさとし)さんは、2007年、上海店店長として中国に渡りました。当時7店舗しかなかった中国での店舗数がこの10年のあいだに爆発的に増えていくなか、その最前線で店舗運営に携わってきた木原さんの見てきたもの、仕事への思いとはどのようなものだったのでしょうか。そして今、経営人材育成に取り組む木原さんがスタッフに伝えていきたい思いとは。その根底にある仕事観について聞きました。
  • 木原 聡

    上海FR-MIC部長

    2001年新卒入社。神奈川エリアで店長代行、店長を経て2007年9月から中国へ。上海店店長、スーパーバイザー、FR-MICリーダーを経て、2016年9月から現職。

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「マニュアル通りではつまらない」と海外へ飛び出した

──当初配属された日本では、神奈川エリアを担当していたんですね。

最初に配属されたのは、横浜三越店(現・ヨドバシ横浜店)。当時、日本で最も売上の多い店舗でした。フリースブームの勢いもあって、翌日からバックヤードでひたすら品出ししても追いつかないくらいで……店頭に立った覚えがないほどです(笑)。とにかく目まぐるしいほどの毎日でした。
それが、秋冬商戦に入るとパッタリ落ち着いてしまって……来客数も売上も低下、自分の無力さを感じました。でも僕にやれることをやるしかないと、店長昇格試験を受けて合格し、今度は新人店長として新百合ヶ丘OPA店に着任しました。

新百合ケ丘店ではスタッフが足りなくて。着任して早々に店長業務と並行して、とにかく採用面接と入社した方への研修を繰り返していました。その頃に採用したスタッフは、今でもその店舗で働いていたり、店長になったりして活躍されています。
横浜三越店、新百合ケ丘店での経験を通して、自分一人ではできないことも、チームでは達成していける。そのチーム作り、人の大切さを改めて実感しました。それから神奈川エリアの2店舗で店長を務めた後、2007年9月に内示を受けて、中国の上海店に店長として赴任しました。

──もともと「海外で働きたい」という思いはあったのですか。

そうですね。学生最後の旅行でニューヨークに行った時、寒い中で街行く人のほとんどがダウンかレザーを着ていて、ここならもっとユニクロの高機能なアウターのニーズがあるのでは、と思ったのが最初です。「いずれ海外に出たい」とは考えていたので、ずっと赴任希望は出していました。そんな中、2007年に当時の上司から「上海で新しいチャレンジしてみたらどうか」と背中を押してもらったんです。

ちょうどその頃、この仕事で自分に何が出来るのか、何が強みなのかということを考えていました。このままでいいのか、もっとチャレンジが必要なのでは、と。
スタッフの雰囲気も良く、店舗運営はそれなりにうまくいっていました。その一方で恵まれた環境に甘んじず、ゼロから何かを作り上げるようなチャレンジをしてみたい、とも思ったのです。
人材育成も業務のやり方も、ゼロから商売を組み立てたい。だからこそ、海外は格好の場でした。
「レール」は自分で敷かなくちゃいけませんからね。

困難に向き合って改めて感じた、経営者としての責任

──実際に海外で働きはじめてみて、いかがでしたか。言葉の壁は感じましたか。

特に勉強をしていたわけではなかったので、中国語は話せませんでした。「你好(ニーハオ)」「謝謝(シエシエ)」、……「烏龍茶(ウーロンチャ)」くらいですよ(笑)。店舗で日本人は僕ひとりだし、通訳もいない。週に5日、勤務後に語学学校に通いましたが、学校で教えてもらえるのは最低限生きていくための「サバイバル中国語」ですから、実地で言葉を拾いながら覚えていくほうがよっぽど身に付きましたね。
半年くらいで相手の言葉はわかるようになりましたが、自分の言葉でフィードバックを行うことはしばらく難しかったですね。「きちんと思いを伝えられた」と納得がいくようになったのは、それから2年ほど経ってからのことでした。

──仕事面ではいかがでしょうか。

店長を1年半務めた後、その上のスーパーバイザーに昇格して、北京と瀋陽(シンヨウ)、大連(ダイレン)3都市の8店舗を管轄することになりました。

なかでも印象に残っているのは、当時の上司から「なんとかしてくれないか」と直々に頼まれた瀋陽3店舗の立て直し。二つ返事で引き受けたのですが、想定していた以上に難しい状況だったんですよ。どの店も十分すぎるほど売場面積があって、スタッフも大勢いる。それなのに売上は伸び悩み、大量に在庫を抱えていたのです。
僕はもちろん、CEOや部長も一緒になって現場へ出向き、課題を発見し、解決策について膝を突き合わせていろいろと考えました。そこからなんとか在庫を適正化し、お客さまに支持されるような魅力的な売り場作りを模索した結果、立て直すことができたんです。

その時に感じたのは、経営者としての責任の重さでした。それまでも「自分は商売人だ」と自負していましたが、もしこれが個人商店だったとしたら、もうとっくに潰れて、スタッフもバラバラになっていたかもしれない。
人が働くということは、その人の人生の一部を共にするということ。一人ひとりの人生を経営者は預かっているんですよ。その重みを本当の意味で思い知らされました。

──困難な状況の中で支えになったものは何でしたか。

柳井社長もよく話していますが、「我々は何者なのか」と問い続けて、アイデンティティを確立していくことですね。当時、すでに全世界で800店舗を超え、「グローバルカンパニーだ」という自負はありました。
けれども中国のお客さまにとっては「国内20店舗程度の中小企業」なんですよ。売れない、ということは評価されていないということ。小手先のマーケティングではなく、本質的にお客さまを理解しなければ、我々を受け入れてもらえないんです。

国や文化の違いは関係ない。大切なのは価値観の共有

──木原さんは今、上海にいるんですよね。

昭和と平成が混在しているような、非常におもしろくて、勢いのある街ですよ。
いいものを先入観なくどんどん取り入れていくので、あっという間に「当たり前」が変わっていきます。スマホによって商慣習も大きく変わって、キャッシュレスサービスが浸透していますね。お客さまの方が前に進んでいる感覚なので、我々も負けてはいられません。

──現在取り組んでいる仕事はどのようなものですか。

現在、中国全土で500以上の店舗がありますが、当面香港・台湾を含めたグレーターチャイナで毎年100店舗の出店を計画しています。つまり、毎年100名の店長を育てなければいけないということです。
中国では毎年約500名の正社員を採用しており、社内教育機関であるFR-MICで経営マインドを持った社員の育成を行っています。

彼らと日々接していて素晴らしいと感じるのは、ハングリー精神。どんなバックグラウンドを持った人でも、みんな「店長になりたい、経営者になりたい」と言うんですよ。
ユニクロを選んでくれている子たちは、「公明正大で完全実力主義なのがいい。ここで上を目指して頑張りたい」という思いなんです。成長意欲がものすごく強い。だからこそ、「彼らの思いに応えなくては。共に成長していかなくては」と責任の重さを感じています。

──スタッフ教育において、重要視していることは何でしょうか。

当たり前のことのようですが、「お客さまのために仕事をする」。これに尽きるのかな、と。
たまに「上司の見ているところではがんばるけど、いないとサボりがち」みたいなことが起こるのですが、我々の行動はいつもお客さまに見られているし、お客さまが商品を買ってくださることによって利益が生まれ、私たちのお給料にもなります。
お客さまあっての私たちなんだ、ということを本気で考えて、本気で伝えなくてはスタッフの心に響きません。これはもう、言い続けるしかないかな、と思っています。ユニクロが中国のサービスを変えられると信じています。

ただ、誤解して欲しくないのは、日本のサービスだから優れている、というわけではないということ。中国にも素晴らしいサービスを提供している企業はたくさんある。

研修で必ず問いかけるのは、「皆さんは何人ですか?」という質問。
僕の答えはひとつ。「私は、FR人です」と。

日本と中国の文化の違いなんて、挙げてもキリがないんですよ。互いにその違いを理解するとともに、我々にはFRとしての生き方、価値観がある。
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という同じ志を持って共に働くことが重要なのです。「日本から来た会社」ではなく、「我々の会社だ」と思って、仲間になってもらう方がよっぽど大事ですよ。

そうすれば、彼ら一人ひとりが考え、その思いを新たな仲間に伝えていくはず。これからユニクロが中国で成長し続け、100年続いていくには、そのフィロソフィーをしっかり持った人を育てていくことがカギだと思っています。

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