CONCEPT MESSAGE

PEOPLE
IT、IoT、AI……。
活用できるものは何でも活用し、
「衣」を起点に社会システムを一変させる。

「ニッポンという存在を世界にアピールできる企業で戦いたい」という強い欲望と、「自分も社会も絶えず変化していかないと衰退してしまう」という強い焦燥感と。

ファーストリテイリングとの出会いは必然だった。

私は新卒でSIerに入社し、システムエンジニア、プロジェクトマネージャーとキャリアを重ねた後、社内公募制度を利用しコンサルティングファームへと出向し、コンサルタントとして働いてきました。この間はもう、家にほとんど帰らないで仕事をするような生活を送っており、これはこれで充実した毎日でした。ところが諸事情により実家のある地方都市へと戻ることとなり、IT専門職として市役所に入庁。以後、基幹システム刷新プロジェクトの担当として仕事を進めていたときに、あの東日本大震災が起こりました。

実は学生時代、私は大学院で地震の研究をしたのですが、テレビで被災地の映像が流されるたびに、何もできない自分の無力さと現状に居たたまれない気持ちになりました。

東京を離れ、地方公務員としてこの国を見たとき、世界がどんどん進化していくなかで、日本だけが取り残されているような気がしてなりませんでした。仕事柄、技術の進歩を目の当たりにしてきたことも手伝い、余計にそう強く感じたのかもしれません。いずれにしろ中国をはじめとする新興国が、新しい技術を積極的に取り入れながら先進国に一気に追いつこうとしているのに、日本はといえば、前例や慣習といった旧来の厚い壁に阻まれ膠着状態。しかも震災により、自信まで失いかけている……。

私は無性に東京に戻りたくなりました。「ニッポンという存在を世界に強烈にアピールできる企業でグローバルに戦いたい」という強い欲望と、「自分も社会も絶えず変化していかないと衰退してしまう」という強い焦燥感。そんな気持ちをきっかけに転職を考えた私にとって、ニッポンの企業として世界というフィールドの最前線にいるファーストリテイリングとの出会いは必然でした。

「セルフレジ」の導入が、「アパレル業は接客業である」という命題と向き合うことに。議論はジーユーの存在意義そのものを問うまでに発展した。

RFIDを活用して機会ロスを回避する。

ファーストリテイリングに入社後、私はサプライチェーンマネジメントのシステム開発やRFIDプロジェクトの立ち上げに関わりました。RFIDことRadio Frequency Identificationとは、IC と小型アンテナが組み込まれたタグなどから、電波を介して情報を読み取る非接触型の自動認識技術のこと。すでにジーユーもこの技術を使って何かできないかという検討が進められており、そこに私も合流することになりました。

そもそもジーユーがRFIDに期待したのは、次の2点でした。1点目は、在庫管理のレベルを上げることで、「欲しいものが売場にない」という事態を解消できるのではないかということ。2点目は、セールのたびに直面していた「レジ待ち」課題を解決できるのではないかということでした。「欲しいものが売場にない」ことも「レジ待ち」も、どちらも機会ロスへとつながるだけに、ビジネスとしてはぜひとも回避したいところ。そこで私たちが着目したのが、RFIDを活用した「セルフレジ」の導入でした。

しかし、ここで私たちは「アパレル業は接客業である」という命題と向き合うことになり、議論百出となりました。「会計もまた、お客様との大切なタッチポイントではないか」「接客サービスを通じて商品を売り込むという機会を、自ら手放していいのか」「セルフレジは店舗を無機質なものへと変貌させ、ファッションを自分たちで否定することにならないか」「スーパーマーケットのようにお客様が自ら機械にタグをかざすという行為は、ファッションブランドとしてのイメージをおとしめないか」「そもそも自分たちがやるべき仕事を、お客様に押し付けることにならないか」……。

議論はジーユーの存在意義そのものを問うまでに発展していきました。

新しい取り組みは正解がわからないから難しい。

議論がヒートアップしていくなかで発揮されたのが、ファーストリテイリングのDNAでもあるチャレンジスピリッツでした。私たちにとって現状維持とは最大の危機。「できない理由を指折り数えるよりも前に、まずは可能性を信じてやってみようじゃないか」という意識を、プロジェクトメンバー全員が共有していたことが、「セルフレジ」の実現へとつながりました。このマインド、行動姿勢、経営層の即断即決については私自身、それを望んで転職した経緯もあっただけに、胸のすく思いがしました。

実現した「セルフレジ」は総じてご好評をいただいています。これまでレジでの対応に多くの時間を割いていたスタッフが売場に長くいられるようになったため、商品補充やお客様へのご案内を、これまで以上に手厚くできるようになりました。何よりうれしかったのは、「セルフレジ」で購入するという行為、体験そのものをお客様が面白がってくださり、その様子を動画サイトやSNSなどで発信してくださったことでした。「WAO!」という新鮮な驚きを提供することは、ジーユーのこだわりでもありましたから。

ただ、この「WAO!」を本当にお客様に届けられるのかどうかは、正直蓋を開けるまでわかりませんでした。新しい取り組みというのは、正解がわからないところに難しさがあることを、私も再認識することになりました。

「現場、現物、現実」を武器に、さらにいえば60年以上の歴史により導き出した「原理原則」をもとに、アパレル業から世界に変革をもたらし、世界中に「WAO!」を提供する。

ITの世界でいう「プラットフォーマー」になる。

課題はいろいろある「セルフレジ」ですが、それでもアパレルショップでどこよりも早く実践し、ひとつの雛形を作ったことに、この取り組みの価値があると私は考えています。ビジネスの世界には「先行者利益」という言葉がありますが、ITの世界でも市場において有利な立場にあるのはプラットフォーマーであり、その多くは最初にそれを手掛けた人たちです。プラットフォームとしての確固たるデファクトを取ってしまうからこそ、つねに市場でも勝者でいられることを考えたとき、ビジネスの基本のひとつとなるのは、やはりスピード感を持って最初にそれを実現すること。そのためにはユニクロやジーユーのように、変化や挑戦に前向きであることが極めて重要であり、PDCAのサイクルをどれだけ速く回せるかということが鍵を握ります。そしてこのスピードは、「グローバル最適」の追求にとって、実は一番の近道となるのです。

これまでの延長線上にはない変革を起こしていきたい。

今、グローバル企業がこぞってデジタル技術の活用に力を注ぎ、スピードやチャレンジをキーワードに掲げ、必死で業務変革に取り組んでいるのも、要はデジタル技術の活用を通じてどこよりも早く世界基準の仕組み、ひとつの新しい社会システムを作り上げ、自らがプラットフォーマーになることを目指しているからです。

では、こうしたビジネス環境にあってユニクロやジーユーの強みは何かといえば、次の2点だと私は考えます。「世界で事業展開するほどの企業規模を有していながら、ベンチャーマインドを持ち続けていること」「現場、現物、現実を有していること」です。とくにデジタル技術を活用した事業戦略において今後、ますます重要となってくるのが後者です。

デジタルというワードだけをひろえば、これからもITベンダーの優位性は変わらないかも知れません。ただ、注目すべきは仮想空間、バーチャルな世界を通じて世の中に革命をもたらしてきたITの巨人たちが、ここ数年、こぞってリアルな世界に進出し始めていることです。それはなぜかといえば、お客様が暮らしているのはリアルな世界だからです。

私は、ユニクロやジーユーで働く醍醐味とは、「現場、現物、現実」を武器に、さらにいえば60年以上の歴史により導き出した「原理、原則」をもとに、アパレル業から世界に変革をもたらし、世界中に「WAO!」を提供できることだと考えています。

IT、IoT、AI……。私は活用できるものは何でも活用し、これまでの延長線上にはない変革、まさにパラダイムシフトを起こしていきたいと考えていますし、それを起こせないと早晩、ユニクロもジーユーも立ち行かなくなるという危機感すら抱いています。だからこそ、実生活の豊かさを実現する衣食住の「衣」、それも世界品質による適正価格の「衣」を最大の武器に、従来の社会システムそのものを一変させるくらいの変革を、アパレルショップを起点に地球規模で起こしていきたいと真剣に考えています。同時にその取り組みが、今の私を最高にワクワクさせてくれています。