CONCEPT MESSAGE

PEOPLE
海外事業は、ジーユーに何をもたらすのか?

失敗から学び、成功には執着しない。

小倉

香港事業としてのジーユーを振り返ってみて、何か思うことはあった?

大石

私はオープン2ヶ月後に香港事業に参加して多くの話を聞かせてもらいましたが、オープン時は「ワイドパンツ」がひとつのキーアイテムだったと思います。ジーユーがオープンする前は、ワイドパンツをはいている人なんて香港にはいませんでした。この点で、もしかしたら「売れないかも」と思いながらも、小倉さんはあえてそこを選び、社員にも異存はなかった。そしてそれを売るために、売場づくりも日本よりファッションというものを拡大して展開したり、マネキンの数も日本の倍以上導入したり。マーケティングもファッション性が高いものに重点を置き、ユニクロにあるようなベーシックカジュアルにはあまり投資しなかった。ファッションを全面に打ち出したことで、ユニクロとの差別化をきちんと伝えていきました。こうして、すべてが連動し、販売員も連動して、ワイドパンツも飛ぶように売れて。だから最高のスタートが切れたのではないかと、私は理解しています。

小倉

確かに4つの機能をきちんと連動できたのは大きかったね。売場、商品、マーケティング、そして販売員。大石さんがいうように、売場はファッションコーナーやマネキンを多く使い、マーケティングはファッションものに集中投下した。そして販売員は大石さんにも頑張ってもらい、おしゃリスタと呼ばれる接客専門スタッフを20名養成し、超オシャレな集団へと仕立て上げていったね。そういった取り組み、リソースを中心に、「Wear Tokyo Now」というキャッチフレーズでオープンした。「Wear」は「着よう、服」、「Tokyo」はファッションのイメージ、日本発であること、そして「Now」というワードで、「今、最新の」という部分を強調する意味を込めたね。このキャッチコピーは1年間使い続けたけれど、少なくとも「ユニクロとは違うんだ」ということは伝えられたように思うね。

大石

一方で、香港では「寒くなったらユニクロに行こう」となり、「ジーユーに行こう」という発想が生まれないくらい、私たちはファッションに偏りすぎていたのも事実。夏以上に、冬というのは機能性が求められる中で、「冬も楽しめるファッション」の訴求がまだまだ弱かったのだと痛感しました。でも、これは結果論であって、やってみないとわからない部分だったように思います。

小倉

やってみないとわからない、というのは多分にあるよね。ユニクロの分析をしても、共有できるのはベーシックな部分であって、すべてがジーユーに適用できるわけではない。それにひとつ言えるのは、ジーユーにしろ、ユニクロにしろ、ファーストリテイリングにしろ、もう失敗だらけ。ジーユーがここまで大きくなれたのも、多くの失敗があったから。大切なことは、失敗したことを次に活かすという能力と努力と執着心であり、ジーユーという会社はこの部分に長けている。失敗したら一発アウトという会社じゃない。一方で、一発成功しても、一生成功じゃない。だから、いつでもチャンスがあると考えるし、「今」をきちんと評価してくれる会社。そこは私が20年前に入社してからずっと変わらないところだし、もっとも好きなところだね。

日本のやり方では通用しない、香港事業。

大石

私は学生の頃から、日本の何かを海外に伝える、広められるような人物になりたいと思っていたんです。だから今、世界中の人がより幸せな人生を送れるような商品を届けられる仕事ができているということを、素直にうれしく思っています。それに日本とは環境の異なる地で働くことで、今までにはない自分に出会えるのではないかと、個人的にも期待しているところですし、実際に現地に駐在し、その期待はますます膨らんでいます。

小倉

実際、何か感じる変化はあった?

大石

ありました。日本にいたときは370分の1の店舗の店長というふうに思っていたところもあって、自分は大勢のなかの一人なのだから、そんなに前に出る必要はないかなという、ちょっと斜に構えた、良くない社員でした(笑)。でも香港に来て、たくさんのチャンスをもらったというか、いつも小倉さんに「あなたしかできないんだよ」という言葉をかけてもらっていることもあり、自分にしっかり期待をするようになったというのは大きな変化だと感じています。自分に期待するということは、自分には他の人にはできない何かができるかもしれないと考えることでもありますから。使命感をより強く感じるようになった点で、一皮むけたような気がします。

小倉

そういう言葉を聞けることが、私たち上司は本当にうれしいんだよね。ちなみに私の場合は、大石さんのように英語を話せるわけでもないし、正直言えば海外駐在はしたくなかった(笑)。ただ、ジーユーが世界一になるために避けては通れない道だし、日本で10年かけて磨いてきたわれわれのビジネスが、果たして海外に通用するのかというのを自分の手で試したかったし、自分なりに培ってきたビジネススキルというものが、海外でも通じるのかということを、どうしても試したかったんだ。この衝動、好奇心には勝てず、香港事業については自ら手を挙げたんだよね。

大石

実際、海外での生活はいかがですか? 私は日常会話程度の英語はできますが、広東語はぜんぜん話せないので、現地スタッフたちとより深いコミュニケーションが取れるようにと、簡単な言葉から少しずつでも覚えるようにしています。日常生活でもお店で何か注文するときは、なるべく広東語を使っています。

小倉

言葉についてはこれが不思議なもので、今もあまり上手ではないのにまったく困らない。日常生活においては、身振り手振りを交えた中学生レベルの英語で十分というのが実感。ビジネスにおいても、「私はこれをあなたに伝えたいんだ」という意思や想いが強ければ強いほど、相手も真摯に理解しようと向き合ってくれるし、正しく伝わる。この点で、問われるのは自分がどれだけ主体性をもって働いているか、という基本。だから、言葉がわからないので海外では働けない、というのはないのかなと。若い人たちへの、どうでもいいメッセージかもしれませんが(笑)。

大石

それ、後進を勇気づける、とてもいいメッセージですよ(笑)。いや、本当に。たとえば、言葉の壁だけでなく、私たちには文化の違いという壁もありますよね。私は現地スタッフに対する教育、育成がミッションですが、「商品、売場、スタッフを通じて、お客様により良いものを届ける」という、言ってみれば全世界の小売業共通の内容を教えているにもかかわらず、日本と同じやり方ではまったく通用しない。でも、ちょっとした創意工夫によって、一気にわかり合える瞬間があるんです。そこが私にはとても面白く、やりがいになっています。

小倉

海外での仕事って、そういうところが面白いよね。日本のやり方のままだと、まず通用しないし成功しない。こういった温暖な地域で、日本と同じような商売していたらアカンな、と思う。日本と同じようにはいかないところをどう創意工夫し、チームワークで乗り越えていくか。このあたりに海外事業の妙味というものがあるよね。

香港を起点に、アジア、そして世界で戦っていく。

大石

今後の海外事業について、小倉さんはどのようにお考えですか?

小倉

商品、販売員、売場体験において、競合との差別化を見つけることがキーだよね。ユニクロも苦労して、生活密着型、機能、価格帯といった部分で差別化を図ってきたけど、対して「ジーユーは?」といわれると、唯一無二のものにはまだなってないと思う。香港においては、たまたま日本のことを好きな方が多いこともあり、「Tokyo」というワードが引っかかったけれど、欧米へ出て行くときにそれが通用するかといったら、難しいかもしれない。それだけにブランディングというものがこれからは大事で、「私たちの競合との差別化はここにあります」という自己紹介をきちんとできない限りは、ずっと輪郭のぼやけたただの服屋で終わってしまうと考えているよ。

大石

ちなみに、その差別化、ブランディングを図っていくうえで、私たちにはどんな視点、考え方、行動の仕方が必要になってくるのでしょうか?

小倉

これは個人的な見解だけれども、商品については現在の発達したサプライチェーンを考えると、品質は別として、2〜3カ月もあれば他ブランドも同じような商品を流通させることができてしまう。それだけに、カギを握るのはやはり店舗ではないかと。これは体験型売場じゃないけれども、何かしら実店舗じゃないとできないサービスというのを考え抜いたところが、有利になってくるのではないかなと考えます。それから、やはり販売員だね。結局、いくらデジタルが進もうとも、心のこもったサービスというのが、われわれのDNAであって、それをどうやって表現していくか。一番の差別化ポイントとなるのは、サービスであり、人であり、売場。今までと変わらず現場起点の売場で、どう差別化していくか、というところがわれわれジーユーのポイントになっていく。それだけに、この部分は大石さん自身や、大石さんが教育を担う若い人たちに大いに期待したいところでもある。

大石

これは私自身にも言い聞かせていることですが、現地スタッフたちにもっとも伝えたいのは、「当事者意識」をより強くもってもらうこと。課題を一緒に見つけ、一緒に考え、実行し、失敗し、また考えて……。この繰り返しをともに行っていくこと、そして指導役である私がつねに高い目標や夢を示し続け、自分にも現地スタッフにも期待し続けることを行っていきたいと思っています。やはり究極は香港事業に携わる全従業員が、COOである小倉さんの分身となることだと考えています。世界一のファッションブランドになるためには、皆が同じ志、同じ目標や夢に向かって足並みを揃えていくことが不可欠だと、香港に来ていっそう強く感じています。

小倉

とにかくわれわれは、アジアで勝たないことには世界の切符はもらえない。私が自ら手を挙げて香港に来たのも、ここが世界中の人たちが往来する国際都市だから。ここで成功すれば、中国本土での展開強化や、アメリカやヨーロッパ進出への弾みとなる。逆にいうと、香港で勝てないようだと世界一にはなれない。そのためにも、ブランドの輪郭をはっきりさせることを香港でやらないといけない。値引き販売ばかりに頼るのではなく、価格信用性をもって安心して買っていただけることも、仕組みとして作らないといけない。香港においてはまだまだ出店余地があるだけに、香港を軸に最短で現地化させるということも、実現しないといけない。とくに香港の人たちだけで経営できる状態を作るということが、グローバル戦略においてはとても大事。ここは人材育成にかかっています。

大石

はい。ジーユーは日本の企業ではありますが、世界一になるためには、世界中で同じ志を持っている人を輩出していかないと、絶対に世界一にはなれないと理解しています。それをいち早く進めることができるよう、私も全力で、これからの業務に取り組んでいきたいと思います。

同じ志をもった“チームをつくる”

大石

私は海外事業に携わっていく人に求められる資質は2つあると思っています。1つは人とのコミュニケーションにおいて、外国人とか、日本人とか、年上、年下、上司、部下、同僚……、どんな相手、会社だったとしても、対等に話ができる、というのがすごく大事なのかなと思います。それというのも、私自身はずっと日本で店長を務めてきましたが、上司に対して遠慮していた部分があったのは事実。しかし、それでは会社はいい方向に進んでいかないということを、香港で小倉さんに教わりました。やはりどんな立場の人がいる会議においても、自分が何を考え、どう行動していきたいと思っているのか、それをはっきりと伝えることが、すごく大事なことだと実感しています。そして、もう1つは、何事にも探究心をもって、自分で「なんでだろう」「どうしてだろう」と深掘りできることも大切だと感じています。海外事業とは、自分が育った環境とは全然違うところで商売をしていくことですので、現地のお客様やスタッフが何を考え、その言動に至ったのか、それを知ろうとする気持ち。あるいは、この地域では何が人気なのかとか、そういった分析みたいなことをしていかないと、うまく地域と融合してやっていくことができないと思っています。

小倉

なるほどね。私が思うのは、海外事業に限ったことではないけど、まずは店長を経験することが大切だと思うね。もしかしたらジーユーという組織において、最終ゴールは店長かもしれない。それほどに店長職というのは大変であり、同時に一番輝ける仕事。従業員のこと、お客様のこと、そして社会のこと。COOにしろCEOにしろ、経営者がつねに考えるのはこの3者についてであり、こうした経営のエッセンスはすべて、店長職に凝縮されているからね。そして、そういう人たちに一番必要なのは、チームを作れるかどうかということ。私も今、こうして香港でCOOをやっていられるのも、チームがいるから。だから前を向いていられるし、目標に向かって一緒に頑張れる。こういったことに価値を見出せるかどうか。「自分が、自分が」という人、「自分はもともとこうなんで」という人、「自分はこれが好きではないので」という人は、国内外問わずまず通用しないと思います。ファーストリテイリングにはたくさんのいい言葉があるけど、私は「チームを作る」という資質が、一番必要だと思うかな。

大石

チームといえば、2017年の秋口に香港の本部の人たちが続々とヘルプで店舗に来てくれた話を思い出します。

小倉

そうそう、オープンして半年くらい経ったときだったね。ひとつの催しとしてセールを開催したら、想定以上にお客様が来店されて。在庫は不足するし、売場も乱れて、「今後の営業をどうしようか?」と。そうしたら本部の人たちが声を掛け合い、店舗の立て直しに来てくれた。続々と支援に来てくれて、瞬く間に売場を元に戻し、商品を補充して、接客までしてくれた。そのとき私が感銘を受けたのは、単なる仲良し集団としてではなく、来てくれた全員がきちんとお客様の方を向いたプロフェッショナル集団だったということ。同じ志を持ち、同じ方向を向いている仲間だからこそ、彼らは笑顔を絶やすことなく不慣れな接客販売までしてくれた。感動的な光景でした。

大石

私は休暇中で、その現場に立ち会えなかったのですが、このお話を聞いたときは、私もすごくうれしかったです。本部の仲間が、笑顔で接客してくれたことにとても感動しました。

小倉

やはりジーユーにはポジティブな人、使命感が強い人が多いんだよね。人のために働くということは、結局は自分の幸せにもつながっていくのだと思うんです。なぜなら、人のために働けば、そこに信頼関係が構築され、その関係性が達成感を生み出し、継続的意欲となって自分の成長の助けとなる。同時にお客様の満足につながり、お客様の笑顔が自分の幸せとなる。このプラスのスパイラルをきちんと理解し、大切にしようとするところに、私はジーユーという会社の美徳を見出しています。

大石

「人のために働く」ことの大切さについては、私も小倉さんに教えてもらいました。海外で働くことを夢見てきた私でしたが、当初はなかなか思うように自分の職務を全うできず、家に帰って一人で泣くこともありました。でも、小倉さんに「人のために働く」という視点を与えてもらってから、考えが変わり、景色が一変しました。結局、自分が落ち込んでいたりするときって、自分のことしか見ていないときだと思うんです。「自分ができなかった」「自分のせいだ」ということに気付いたとき、私はまだまだ甘かったと痛感し、「もっと頑張ろう」という気持ちになれましたから。

小倉

柚木社長も話しているように、若い人たちには素晴らしい経営者に育って欲しいと私も願っているよ。いい経営者になるためには何が必要かといえば、「人のために働けるかどうか」じゃないかな。人のために汗を流せる人には、人がついてくる。そうやってついきてくれた仲間とともに、同じ目標に向かってチームで働けることは、成功だけでなく失敗すらも、人生を豊かに彩るかけがえのない財産となるはずだからね。遠い異国の地で、その国の人たちのために汗を流すことで仲間を増やし、その国の仲間やお客様が喜ぶ姿に、自分もこの上ない充足感を感じる。こうした幸せのつながりを「一人の経営者」としてグローバルに生み出していけるところに、ジーユーで働く真の喜びがあるんじゃないかな。