CONCEPT MESSAGE

PEOPLE
イギリス駐在で悔しさを味わったから、
多国籍チームでドイツ事業を立ち上げられた。
真のグローバルリーダーに国籍は関係ない。

当時の私には、組織を動かし、変革を起こしていくだけの、経験も知識も人脈も不足していた。だから、帰国とともにエリアを統括するスーパーバイザーへの就任を会社に願い出た。

マニュアルも整備されておらず、すべてが手探りの状態だった。

入社して2年が過ぎようとしたところで、イギリス勤務の社内公募がありました。もともと海外志向が強く、「世界でどれだけ活躍できるか」「その経験を通じてどれだけ成長できるか」ということにとても興味があり、私は迷わず手を挙げました。

私に課せられた使命は「店長の育成」と「店舗運営の確立」の2つでした。しかし、イギリスはユニクロにとってはじめての海外進出先。赴任当時は事業としても非常に厳しい状況にありました。スタッフのモチベーションを上げるのが難しく、商品を魅力的に見せることやお客様に気を配ることができないほどの状態になっており、まず初めに現地スタッフと、理念、ビジョン、ミッションを共有し、ユニクロがどういうブランドなのか、その価値をしっかりとお客様にお伝えするのが重要であると私は考えました。

当時はまだ、海外展開のための最低限のフォーマットやマニュアルも社内には整備されておらず、すべてが手探りの状態でした。そこで私はまず、ユニクロがもっとも大切にする「お客様ファースト」を身をもって示すために、店舗の整理整頓から着手し、きれいな売場づくりを促しました。

ところが、スタッフにはそれがうまく伝わらず、なかなか変化が見られませんでした。なぜなら、海外においては自分の仕事の責任範囲というものが明確で、誰もきれいな売場づくりが自分の仕事だとは考えていなかったからでした。店舗の美観を維持するスタッフを配置することもひとつの解決策でしたが、それでは根本的な解決にはならないと私は考えました。きれいな売場づくりは、お客様に気持ちよく利用してもらうための、いわば「お客様ファースト」の基本中の基本。これをスタッフ全員で共有してこそ、理念、ビジョンが浸透させられると信じたからでした。

自らの業務に励めば励むほど、私は自分の限界と向き合うことになった。

ユニクロの理念やビジョン、それを実現するためのミッションについて、その重要性や必要性をいくら伝えても、現地の人たちからはことあるごとに同じ言葉を投げかけられました。

「日本の文化ではそうかもしれない。でも、ここはイギリスであり、私たちの国籍、出身国はヨーロッパだけではなくアフリカにも及ぶのよ」。

「文化の違い」というイメージが先行してしまい、ユニクロというブランドの価値、ファーストリテイリングという企業の真意が、現地の人たちにはなかなか伝わりませんでした。

そこで、言葉で伝えるだけではなく、ユニクロの文化を実際に体験してもらおうと、彼らに日本の店舗に足を運んでもらいました。そこでスタッフのお客様に向き合う姿や、商品の見せ方などを間近に見てもらい、本当によいと感じた「ユニクロの文化」を母国で実践するとともに、自らがリードして事業を成長させてほしいと、私は強く伝え続けていきました。同時に、店舗運営や社内教育に関する資料、マニュアルを日本から取り寄せては、まだ心もとない英語力を頼りに英訳し、日頃の指導、育成に活用していきました。

しかし、自らの業務に励めば励むほど、私は自分の限界と向き合うことになりました。それは、自分が経験していないことは結局、人にも教えられないという現実でした。私のイギリス駐在は3年半に及び、終盤は複数店舗を統括するスーパーバイザーとしての働きが求められました。しかし、日本での経験は店長まで。そんな私が日本と勝手の異なるヨーロッパで、現地の店長たちに対しリーダーシップを発揮するには、明らかに力不足でした。

それに何より私が感じたのは、店舗と本部を結び、イギリスから本部を動かしていくことの必要性であり、現地で頑張っている人たちを成長させる仕組み、海外でビジネスをもっと発展させる仕組みを作る必要性でした。しかし、残念ながら当時の私には、組織を動かし、変革を起こしていくだけの、経験も知識も人脈も不足していました。イギリスでの任期を終えた私は、帰国とともにスーパーバイザーへの就任を会社に願い出ました。そして、広範囲にリーダーシップを発揮し、本部を巻き込みながら、目の前の課題を解決することに全力で取り組むことを自らに課しました。

「リーダーとは教え導くのではなく、仲間に『経験』や『体験』を提供し、そこから得た知見をチームのさらなる飛躍の糧にするのが使命なのだ」と教えられた。

私の常識は、あなたの非常識。あなたの常識は、私の非常識。

2011年、私は2度目のヨーロッパ駐在のチャンスに恵まれました。すでにユニクロ欧州は体勢を立て直し、イギリスのみならずフランスでも事業を展開。今後はヨーロッパ全土へと事業拡大を目指す局面での着任でした。肩書きは営業部長、最大のミッションは「ドイツ事業の立ち上げ」でした。

私にとってこの2度目のヨーロッパ駐在は、まさにリベンジでした。最初の駐在は、自分の無力さ、現実を変えきれなかった悔しさの残るものでした。だからこそ、その後の日本での日々は、自分なりに課題意識を持ちながら前向きに仕事に取り組むことができましたし、その成果がどれほどのものかを試せる、自分にとっても期待の膨らむ駐在となりました。

ドイツ事業の立ち上げは、最初の駐在で私が採用、育成を担ったメンバーたちをドイツに引き連れての取り組みとなりました。さらにドイツ人のマネージャーを新たに採用し、プロジェクトチームを正式に発足させたのですが、集まったのは誰一人として同じ国籍でない、約20名のメンバーでした。

よく「欧州」という言葉で一括りに表現されますが、それぞれ国民性は異なります。ひとつの課題について討議しても意見の出し方はさまざま。着地点がなかなか見出せなくなるのですが、ここでかつての私であれば、リーダーシップを発揮しなければと焦り、業務経験の浅さから、既存の枠に捉われた価値観で判断を下してしまい、消化不良のままミーティングを終えていました。しかし、このときの私は違いました。

それぞれの国民性は異なっても、私たちには同じファーストリテイリングで働いているという大きな共通点があることを、私はしっかり認識できていました。しかも同じ目標、同じ価値を共有するまでの仲になっていたこともあり、リーダーとして私がすべきは明確なゴールセッティングだけ。その具体的なアプローチについては、みんなで考えてもらうよう促し、多様な意見が出ることをむしろ楽しめるまでになっていました。このとき私の心にあったのは、イギリス駐在での経験と、その後の日本での仕事を通じて体得したある思いでした。

私の常識は、あなたの非常識。あなたの常識は、私の非常識。固定観念にからめとられてはいけない——。

現地のメンバーが、現地の言葉で、現地スタッフを指揮する。

日本で複数の店長を束ねるスーパーバイザーの仕事をしたことで、私は気づいたのです。「国籍や国民性なんて関係ないじゃないか。同じ日本人だって、店長が10人集まれば10通りの考えがある。その時点で『日本の常識』というのも随分と曖昧なものだ」と。結局、お互いの違いを乗り越えるために拠って立つところはその国の常識などではなく、ユニクロというブランド、ファーストリテイリングという企業が大事にする理念、ビジョン、ミッションであり、何よりも考えるべきはお客様のことなのです。

予想していた通り、ドイツ事業においてもいろいろな意見が飛び交い、リーダーとして決断に迷う場面もありましたが、そんなときは決まって、私はドイツ人のメンバーに意見を求めました。理由はひとつ、ドイツ事業が対象とするお客様はドイツ人だからです。こうしてメンバーの意見を集約しながら、ベルリンで1号店のオープンを迎えたのですが、私たちはいかにもドイツらしい体験をしました。

来店したあるお客様が、エクストラファインメリノのセーターを手に、私たちに問いかけてきました。「これは本物か? どうしてこんなに安く、色も多彩で、このクオリティを実現できるのか?」と。私は「さすが、品質に厳しいドイツ人」と思うとともに、うれしく感じました。「この人は、ちゃんと商品を見てくれている」。どうやらメンバーたちも、同じ感想を抱いたようでした。

この出来事を機に、私たちは店内に実験ブースを設け、各製品が売り文句にしている機能を実証すべく、日本でいう実演販売を開始。白衣姿のスタッフたちが、そのメカニズムを解説し始めると、次々とギャラリーが集まり、商品も飛ぶように売れていきました。しかも、その場でSNSに上げてくださるお客様もいて、ドイツではまだまだ認知度が低かったのですが、口コミでユニクロの存在が広まるきっかけとなりました。

実験ブースを用意しての販売は、プロジェクトメンバーのドイツ人が主導し、同じドイツ人の店舗スタッフたちを巻き込みながら実現させたものでした。現地のメンバーが、現地の言葉で、現地スタッフを指揮し、その取り組みが現地のお客様に受け入れられていく光景を、私も他の国のメンバーたちも目の当たりにしました。そしてその光景を前に、メンバーたちが次々と発した言葉に、私はたしかな手応えを感じました。

「次は私の母国で、自分がトップとして新店を開店させたいなあ」「僕も、同じことを思っていたところだよ」「私も!」

ユニクロは、本当に「世界一」になれるかもしれない——。私は胸が熱くなると同時に、ドイツ人のメンバーと、その姿に自らをシンクロさせて心のうちを語る他のメンバーたちの姿に、とても大切なことを教えられました。「リーダーとは教え導くのではなく、仲間に『経験』や『体験』を提供し、そこから得た知見をチームのさらなる飛躍の糧にするのが使命なのだ」と。

国籍も問わず、任地も選ばず、どの国でも通用する真のグローバルリーダーを発掘、育成するための仕組みづくりに取り組んでいる。そして彼ら彼女らを起点に海外事業を拡大することで、ファーストリテイリングにさらなる変革を起こし、「世界一」への歩みを確実にしたい。

日本起点、日本人起点というやり方には限界がある。

私がファーストリテイリンググループの社内教育を担う責任者として、とくにこれから入社される方々にお伝えしたいのは、「ユニクロが世界一になるチャンスは確実にある」ということです。

現在、ヨーロッパの各店舗ではクリスマスシーズンともなると、商品を大量に購入するお客様を多数、目にします。ヨーロッパでは、クリスマスに向けて20〜30人分のプレゼントをまとめ買いすることも珍しくないのですが、そのプレゼントにユニクロの商品を選んでくださる方が多いのです。お客様に「どうして弊社の商品をこんなにもたくさん買ってくださるのですか?」と尋ねたことがあるのですが、「まだ、うちの町にはお店がないからだよ」という回答がほとんど。しかも、これはお客様に限ったことではなく、各店舗のスタッフたちからも聞く言葉で、彼ら彼女らも帰省のたびに自社製品を大量に購入し、それを実家に発送しています。

こうした事実からも、ユニクロは大きな可能性を秘めているわけですが、同時に新たな経営課題も生み出しています。それは人財の不足、なかでもグローバルリーダーの不足です。これまでユニクロは私がそうであったように、日本を起点に、日本人が現地に赴くことで、海外事業を拡大してきました。しかし、各国の店舗網をさらに網の目のように張り巡らしていくためには、日本起点、日本人起点というやり方には限界があります。また、ドイツ事業が示したように、現地の人の、現地の人による、現地の人のためのビジネスこそが、ユニクロというブランドをその国のマーケットに浸透させ、その価値をさらに高めていくことにつながります。それだけに私は、国籍も問わず、任地も選ばず、どの国でも通用する真のグローバルリーダーを発掘、育成するための仕組みづくりに取り組んでいます。そして彼ら彼女らを起点に海外事業を拡大することで、ファーストリテイリングにさらなる変革を起こし、「世界一」への歩みを確実にしたいと考えています。

さらにこの取り組みは、自分自身の今後のキャリア形成においても重要な意味を持つと認識しています。ヒト、モノ、カネ、情報、信用など、経営資源はいろいろとありますが、何より大切なのはヒトであり、夢を共有できる仲間の存在。私はこの仲間づくりに深く関わっていくことで、これからまた海外に出て、現地法人で働くときの自分のストロングポイントにしたいと考えています。

最後になりますが、ユニクロで真のグローバルリーダーを目指す人たちにアドバイス。これは私の経験則ですが、グローバルリーダーに求められるのはコミットメント、オープンマインド、そしてフェアネスの3つだと考えます。これを意識するだけで、「常識が変わっていく」「世界が変わっていく」ことを体感するだけでなく、自分もそれを起こしている当事者のひとりであることを実感するはず。これこそが、ユニクロで働く醍醐味です。